ベルトーネ時代。若きジウジアーロのひらめき|アルファロメオ・ジュリアスプリント GT Vol.1

       
●1966年式 アルファロメオ・ジュリアスプリント GT

戦後のアルファロメオ(以下アルファ)の歴史は、1950年のパリ・サロンで発表された1900ベルリーナから始まったといっていい。

 バルブ挟み角90度をもつコンパクトな1884cc水冷直列4気筒DOHCユニット、ダブルウィッシュボーン式のフロントサスペンション、そしてアルファ初となるモノコック構造のボディを採用したこのクルマはまた、4半世紀にわたり高級車メーカーとして君臨し続けてきたアルファの方向性が、一品物のオートクチュールから既製品たるプレタポルテへと大きく転換したことを象徴していた。




関連記事:年産10万台規模の自動車メーカーへ! 戦後アルファの集大成ともいえる1台|アルファロメオ・ジュリアスプリント GT Vol.2

 しかし、1900をもってアルファが完全な民主化を成し遂げたとは言えない。市井のカロッツェリアたちが、すぐさま得意客のためにベルリーナのフロアパンをベースとした独自のフォーリセリエ(=一品物)を造り出すと、アルファは彼らのために特装用の1900Cと呼ばれるショートホイールベースのローリングシャシーを用意。

 本社でクーペバージョンを造る態勢が用意できないのを逆手に、カロッツェリアに競作させて眼鏡にかなったものをカタログモデルにする秘策を編み出したのだ。

 イタリアのジャーナリスト、エルヴィオ・デガネッロが「カーデザインのルネッサンス」と呼ぶ“デザインコンペ”で、ベルトーネ、ピニンファリーナ、トゥーリング、ギア、コッリ、ボアーノ、ザガートといったカロッツェリアから、次々と“オートクチュールのアルファ”が送り出された。
 今にして思えばそれは、次世代のアルファの姿を模索していくうえで大きな意味をもつ儀式となった。

 1954年、アルファは次世代の小型車、ジュリエッタシリーズを発表する。進化したアルミ合金製の1.3L DOHCユニットをもつこのクルマは、ベルトーネのデザインしたクーペ、社内デザインによるベルリーナ、そしてピニンファリーナによるスパイダーと、それぞれ異なるデザインスタジオの手を経てデビューを飾ったのだが、そのデザインは1900デザインコンペの中で唯一カタログモデルとして採用された、トゥーリング製の「Cスプリント」と「Cスーペルスプリント」の影響を色濃く反映したものとなっていた……。

 こうして登場したジュリエッタは、アルファを歴とした量産メーカーへと飛躍させるヒット作となった。その成功を受け、彼らは2000/2600と、ジュリエッタの間を埋める新たな小型車の開発を模索する。それが1962年にベルリーナのみでデビューを飾ったジュリアだ。そしてアルファはジュリエッタの時と同様、そのクーペバージョンのデザインをベルトーネに依頼する。
 このときヌッチオ・ベルトーネの指揮の下でアウトラインを描いたのが、若き日のジョルジェット・ジウジアーロだった。


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スプリントGTのみに採用される一体式のバンパーは超貴重品のため保管している。
普段は写真のとおりGTヴェローチェ用を装着しているそうだ。




マットブラック仕上げになるインパネは、オーナーの好みでレザー張りとなっているが、オリジナリティーはもの凄く高い。配線類もオリジナルを維持したままキレイに整理されていたのが印象的だった。



スプリントGTのみの特徴である格子状のグリルは、ジウジアーロのデザイン思想を読み解き、ステンレスで作ったワンオフ。もちろんオリジナルは大切に保管しているそうだ。


掲載:ノスタルジックヒーロー 2012年2月号 Vol.149(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text:Yoshio Fujiwara/藤原よしお photo:Daijiro Kori/郡 大二郎

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