名神高速をセリカで時速200キロで走り、新幹線と並走して撮影した|レーシング・ドライバー大坪 引退の顛末 Vol.6

75年9月6日に公開された『動脈列島』で新幹線爆破を企てる研修医に扮する近藤正臣とバーで知り合った女役の梶芽衣子。

新幹線こだまと並行する名神高速をセリカ1600GT(原作はブルーバード)で研修医に扮する近藤正臣が並走し、爆破犯行予告4日前に信号電波を発信し新幹線を止めてしまう。

そして、当日ブルドーザーを新幹線に激突させようとするストーリー。


 実際にクルマを運転したのは大坪。

名神高速を一般車が通行したまま、セリカは右に左にレーンを変えて走る。

セリカはトヨペットサービスセンターでチューンされ、200km/hで激走した。

もちろん無許可撮影だった。


 爆破予告の日に使用されたクルマは低公害のシビックCVCCで、新幹線公害をテーマとする映画らしい。


関連記事:日本初の車載カメラによるレース撮影。レースにドライバー兼カメラマンとして参加|レーシング・ドライバー大坪 引退の顛末 Vol.5


 主演は田宮二郎、近藤正臣、関根恵子、梶芽衣子。


 大坪は以前から劇場用映画を制作したいという希望を持っていたが、『動脈列島』の2年後、レースをテーマに撮ると水を得た魚のように、生き生きとした作品を作っている。


 78年にはイギリスF3に挑戦した中嶋悟のドキュメンタリー番組『羽ばたけ世界に 中嶋悟』がTBS系で放映される。

のちにビデオ化されて発売された。


 さらに、80、81年にイギリスF3レースに挑戦した鈴木利男のビデオも制作している。

それが『F-1をめざす男 鈴木利男と2G-T』。


 鈴木利男はカートで75年、76年全日本選手権Aクラスチャンピオンを獲得。

79年に全日本F3選手権で初代チャンピオンに輝く。

F3協会のスカラシップで、イギリスF3に挑戦する模様がこの作品に描かれている。


「このビデオを大坪さんが作ってくれたおかげで、トヨタさんなどにアピールできました。

その後のレーサー生活の大きな助けになりました」と今も鈴木利男は大坪に感謝している。


 少し年代が戻るが、大坪は79年7月21〜22日の「スパ・フランコルシャン24時間レース」に参戦した大塚えみこ/江尻旬子/竹下憲一組セリカと磯部淳一/舘信秀/宮下加代子組セリカを撮影し作品を作った。

これを機に大坪はチーム監督として3度このレースに参加している。

この作品では大坪がステアリングを握ることはできなかったが、チーム監督として参加するという新手法だった。


 81年頃から2輪のロードレース世界選手権(WGP)を撮影するために、大坪は世界を駆け回るようになった(ヤマハに乗るケニー・ロバーツが78年から80年、3年連続チャンピオン)。

この頃スタッフとして山田百合子が入社する。

ジャッキー・イクスを起用したダンロップのCF、ポルシェファクトリーチームのPV(プロモーション・ビデオ)などを制作した。


「大坪さんは運転はする、カメラは回す。

普通の制作会社ならドライバー、カメラマン、特殊機械製作を別々に手配しますが、大坪さんは1人でやってしまいます。

業界のルールを破ってコストダウンしてしまう。

時代を先取りしていました。


 広告代理店からの仕事でトヨタのCFをオランダのアムステルダムの郊外で撮影しました。

クルマの中にいる大きなつばのある帽子をかぶっている女性のシルエットを撮るシーン。

大坪さんは器用に段ボールで帽子を作ってしまいました。

代理店は面白くありません。

しかし、大坪さんは影しかカメラに映らないものならいいんだと、そのやり方を押し通しました」と山田は大坪らしいエピソードを披露してくれた。

  86年9月13日公開の映画「プライド・ワン」(東映)の総監督として大坪は本格的な劇場映画を制作する。

構成・監督には和泉聖治(『沙耶のいる透視図』『南へ走れ、海の道を』などの監督)を起用した。




86年9月13日公開の映画『プライド・ワン』(東映)の総監督として大坪が劇場用映画を制作した。

ロードレース世界選手権を追った作品である。





『動脈列島』のDVDのジャケット写真では犯人役の近藤正臣と捜査本部長役の田宮二郎の顔が大きく扱われている。

このDVDは現在キングレコードから発売中。



掲載:ノスタルジックヒーロー 2011年 10月号 vol.147(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text :Nostalgic Hero/編集部

RECOMMENDED

RELATED

RANKING